♯1117 日銀も満腹 - 今日の視点 (伊皿子坂社会経済研究所)

 日銀が保有する資産の残高は昨年の6月に史上初めて500兆円の大台を突破し、今年3月末には前年比7.8%増の528兆2000億円に達しています。このうち国債が448兆円と全体の85%余りを占め、さらにETF(上場投資信託)が約19兆円を占めている現状にあります。

 勿論その原因は、(広く知られているように)日銀がデフレ脱却に向けてお札を大量に刷って国債などの巨額買い入れを続けているところにあり、買い入れ額は2013年4月にQQE(Quantitative-Qualitative Easing量的・質的金融緩和)を始めた時点の約3倍に達し、国債発行残高の実に4割を超えています。

 このため、日銀の資産の膨張は国の経済規模を示すGDP(国内総生産)に匹敵する規模に及び、2018年度にはこれを超える見込みとされています。これは、同じ中央銀行アメリカ・FRB連邦準備制度理事会)の23%、ECB(ヨーロッパ中央銀行)の38%と比べても突出して高い水準です。

 他に類を見ない規模に膨張し続ける日銀の総資産に関し、6月6日の日本経済新聞は「膨らむ日銀総資産、世界最大も視野」と題する記事を掲載しています。

 黒田日銀総裁は就任以来、安倍首相が進める経済政策アベノミクスの「第一の矢」(異次元の金融緩和)の一環としてデフレ脱却に向け国債を大量に買い入れ、市中にお金を供給してきました。

 一方、それから5年余りの歳月が流れた現在、(結局のところ)いまだ肝心の物価上昇率2%の目標達成からは遠く、市中の「金余り」ばかりが目立つ状況が続いています。

 日銀の資産は、昨年FRBの資産総額(3月末で482兆円)を超え、来年には規模縮小が続いているECBの資産総額(581兆円)をも抜き去って、世界最大の資産を持つ中央銀行になる見込みだということです。

 一方、そうした中でも日銀に路線変更の兆しはないというのが現状に関する記事の認識です。若田部昌澄副総裁は6月5日の参議院財政金融委員会で、「直ちに保有国債の売却を念頭に置いているわけではない」と国債買い入れ余地がまだあるとの考えを示したということです。

 こうした状況について、記事は、歯止めのない膨張ぶりに日銀の財務が将来、悪化する懸念も出始めたと記しています。

 2017年度の経常収益こそ2年連続の増益だったが、価格変動の大きいETFの残高は時価ベースで24兆円に積み上がっている。日銀の自己資本は8兆円で足元の株高で今は5兆円の含み益はあるものの、一旦株安に転じれば巨額の含み損を抱えかねないということです。

 記事によれば、日銀が公表する自己資本比率は3月末時点で8.09%と、日銀自身が財務の健全性の目安としている8%は(かろうじて)超えているということです。ただし、(日銀が歴史的に健全性の目安としてきた)自己資本を銀行券の発行残高で割って求めた数字ではなく総資産で割る一般的な自己資本比率を算出すると、これは2%に満たないと記事は説明しています。

 2017年9月に米FRBが(金融緩和の出口政策として)資産の縮小を決めた際、当時のイエレン議長は物価低迷の理由は謎としながらも「経済の緩やかな拡大」を理由に政策変更に踏み切ったということです。こうして景気の著しい悪化に備えて政策を発動する余地を作るため、早めに早めに手を打ってきた点が日銀とは大きく異なると記事は説明しています。

 2013年に黒田総裁の下でQQEを始める際には、日銀にもそれなりに緊張感があったと記事は言います。それ以前の日銀は、緩和で資産が過度に膨らむのを避けるため、銀行券以上の国債を持たないよう自己規制を設けていたからだということです。

 しかし、QQEの開始に伴い日銀はそのルールを一時的に停止した。そして今、これまで意識して封じ込めようとしていたリスクが、現実のものとなって迫りつつあるとこの記事は結ばれています。

 さて、一般に日銀による国債の「買い取り」と「引き受け」は、(厳密に言えば)違う意味を持っているとされています。

 「買い取り」とは日銀が市場の銀行が保有している国債を買う行為であり、銀行は資金が増え、金利を下げて企業や個人への貸し付けを促進することができる。このため、金利が下がることで個人の購買意欲も増し、景気を回復させる効果が期待できるということです。

 一方、国債の「引き受け」は、日銀が金融市場を通すことなしにお金を刷って国債を買い入れ、政府へ直接資金を渡す行為を指すものです。

 政府はそれを満期が来た国債の支払いに充てたり、公共事業を起こしたりして経済を活性化させようとするのですが、これが、(原資がないのに空からお札を巻くように景気を刺激する)いわゆる「ヘリコプター・マネー政策」と呼ばれる所以とされています。

 しかし、これでは(中央銀行にお金を刷らせれば)政府はいつでも政府は簡単に資金を手にすることができるため、いつの間にか緊張感や節度がなくなり(通貨の増発に)歯止めがかからなくなる恐れがあるのは事実です。

 ハイパーインフレはこうした「禁じ手」を繰り返すことにより引き起こされることが多かったことから、現在では日本銀行による国債の引き受けは財政法第5条により原則として禁止されている(「国債の市中消化の原則」)訳ですが、逆に言えば、一旦市中に出てしまった国債はその(法律で規制されるものの)限りではありません。

 こうして、現在の日本では市中銀行等が買い取った国債を日銀が(そのまま)引き受けるような形で次々と「買い取って」いくことが普通の形になってる。

 このようないびつな手法に関しては「事実上の引き受けである」として、エコノミストばかりでなく(共産党をはじめとした)野党関係者などからも厳しい声も上がっているところです。

 果たして、このような(タコが自分の足を食べるような)状態をいつまで続けていくことができるのか?日銀の総資産がGDPと肩を並べようとしている現在、そろそろ真剣に考えてみる時期に来ていると感じるのは私だけでしょうか。